「トワイライト〜初恋〜」

 たぶん「ヴァンパイアもの」、「ホラー映画」という視点でみるとかなり物足りない内容だと思う。この映画は決してホラーではなく、ヒロインのベラ(クリスティン・スチュワート)が恋した相手エドワード(ロバート・パティンソン)がたまたまヴァンパイアだったというだけで、それ以外の部分のお話は淡々と進んでいく。
 知り合ってから付き合い始めるまでの過程を丁寧に時間を割いて描写してあり、このあたりはまさに付き合い始めたばかりの十代の男女のそれで、セックスの匂いが全くしない清々しいもの。ある程度ロマンチックなことが起きたりはするけれど、事件に巻き込まれたり、危ない目にあったりすることは終盤までほとんどありません。(せいぜい街で不良に絡まれるくらい。)
 そういう意味では本当に拍子抜けで、「人間と吸血鬼」についての物語であれば、古今東西もっと優秀なものはいっぱいあるし、最近の日本のラノベやマンガを見渡しただけでも、これより濃い内容のものはいくらでもある。
 物語の転換点も、エドワードの家族(もちろんヴァンパイア、みんなベジタリアン)と野球をやっていたら、相手が迷い込んできたという拍子抜けな展開。でも、このお話にオドロオドロしい展開は不要で、ヒロインは「異性」という未知の存在にもう十分ドキドキしているして、慣れない田舎の環境と初めての父親との生活に疲れきっている。「思春期の不安」とか「不安定さ」といった心の揺れを表現するのに「非日常」な事柄は必要ない。十代(思春期)の女の子は「現実」で生きているだけで十分のハードなのだと言わんばかりで、この辺りのテイストは監督のキャサリン・ハードウィックの得意とする領域で、等身大の少女の日常を切り取りながら、恋することで変わっていく女の心象もキレイに描き出している。
 アメリカの片田舎でひっそりと暮らす不死の一族、彼らと出会ってしまった普通の少女、その一人と恋に落ち、永遠に彼と一緒に思いながらも、自分を愛する男は決して自分を傷つけようとはしない。そこに襲い来る野獣のような別のヴァンパイア、必死に自分を守ろうとする彼、罠にはまり瀕死のヒロイン、さてその運命は如何に。
 っと、こんな感じで、普通ならヒロインのベラは、映画の最後に愛する男の手でヴァンパイアに変えられてしまい、それまでの人間としての生活を捨て旅立つという展開のが定石なのですが、そこはティーン向けの健全なファンタジーなので、ベラは当然ヴァンパイアにはならないし、何事も無かったように父親のもとに帰還してしまう。(駆け落ちを助長するような内容では不味いわな。)
 巧みにセックスという要素を回避し、親子連れでも安心して鑑賞できるような配慮が随所に見られるんですが、それを上手くやりすぎた結果、エドワードは奥手でプラトニック、ベラは初めての恋愛でイケイケという図式が完成してしまい、最後に「早く私の処女を奪って」とベラが懇願してしまうという皮肉。
 元々ヴァンパイアものにおける「吸血」・「血液交換」はセックスの暗喩なので、そこは避けて通れないはずが、終盤まで上手く回避しつつオチで大きなどんでん返しを持ってくるあたりは、キャサリン・ハードウィックのちょっとした悪意でしょうか。それにしてもここまで楽しく嫌味の無い女性目線の娯楽を作り上げられたのは、原作者ステファニー・メイヤー(作中の一瞬カメオ出演あり)と脚本家メリッサ・ローゼンバーグ、それと演出のキャサリン・ハードウィックの3人の女性が三位一体となって真摯に作品を作り上げた結果ではないかと思います。
 終盤に幼なじみのネイティブアメリカンの青年(ハーフなのでエキゾチックな東洋系でありながら青い目をしているワイルド系。たぶん狼男。)がベラとエドワードの間に介入してくるあたり今後の展開が大変楽しみですが、いっそのこと英国からに留学生(如何にもイギリス人的なスマートさを持った青年、当然名字はヘルシング。)を登場させて、3人でベラを取り合うみたいな展開になるといっそう女性客が増えるなあと妄想をしてしまいました。