結果報告(4月5日)

 世間はミサイル、ミサイルとうるさいし、TVも退屈なのでまとめて鑑賞。 公開2週目の週末に2回目の鑑賞となった「ウォッチメン」。すでに大変優れた感想や批評がネット上のあちこちにあるので(ググれ!!)、これについては簡単に。やっぱり惚れ惚れするのはオープニング。画面に埋め込まれるスタッフ・キャスト名のかっこよさ、何気に自身のセクシャリティをカミングアウトするミニッツメンのシルエットなど。一番好きなのは、初代シルク・スペクターの引退場面がダ・ヴィンチの「最後の晩餐」になっているところ。
 それとナイトオウル(2代目!)とシルク・スペクター(こっちも2代目!)の刑務所の襲撃シーンは、何度観てもたまらない横スクロール格闘で、チャンバラ映画の殺陣シーンを彷彿とさせる流麗さは、ワイアーの無いアクションとしても傑出していると思いました。
 隣国からミサイル(人工衛星のロケット?)が飛んでくるかもしれない時に観る映画という意味では、割とタイムリーなものになっていると思います。
 続いて「トワイライト〜初恋〜」。実は劇場行ってからも観るかどうか迷ったんですんが、監督が「サーティーン」、「ロード・オブ・ドッグタウン」のキャサリン・ハードウィックということでやっぱり観ることにしました。
 監督が監督だけに、これは「ホラー映画」ではなくあくまでも「青春映画」。特に思春期の女の子が初めて異性と付き合う時のドキドキ感をファンタジックな設定に置き換えながら描いた良作。相手役の青年エドワードが「吸血鬼」であるという設定は、「王子様」でも「一匹狼の不良」でも成り立つという意味では古典的な女性目線のおとぎ話で、日本で言えば、コバルト文庫や中高生向けの少女マンガで手垢がつくぐらい繰り返されてきたネタ。そういう意味では新鮮みがないんですが、ヒロインの半径10キロ以内であらゆるドラマが展開するあたりは、むしろ女性の方が楽しめる作品だと思います。
 あと、シリーズ物の一作目ということで最後は「つづく」となる訳ですが、プロムの会場で踊る二人の交わす会話が、「草食系男子」と「肉食系女子」のせめぎ合いなっていたのが可笑しかったです。
 本日の本命「ザ・バンク 堕ちた巨像」。主演クライブ・オーウェン、共演ナオミ・ワッツ、監督トム・ティクヴァと嫌いなものが無いという状態での鑑賞(その分割り引いて読んでください)。
 で、結果これは自分の中では傑作に認定。北米で大きく転けたと聞いていたので若干心配でしたが、それに関しては内容の難しさよりも、オチに納得出来るかどうかが大きな分かれ道になったのでないかと思いました。(自分はありだと思います。イタリアンマフィア最強!)
 ネット上では「地味」と評判はイマイチですが、「スパイもの」、「国際陰謀もの」の定石を踏まえつつ、最近の世情にも配慮した展開がいいのと、明確な「敵」を設定しにくい時代において、あえて打つ滅ぼすべき「悪」を設定し、それに肉薄してみせた姿勢はもっと評価されるべきだと思います。グローバル化した世界で「システム」となった「悪」に対抗することの意味とその虚しさをイスタンブールの夕焼けの中で一人佇むサリンジャー(クライブ・オーウェン)の姿が見事に体現していたと思います。「007/慰めの報酬」で自分が不満に感じた部分を見事に補ってあり、その上それを上回る展開にお腹一杯になりました。
 あと、グッゲンハイム美術館での銃撃戦は、全盛期(香港時代)のジョン・ウーのようで、男なら萌えずにはおけない見事なシークエンスだったと思います。
 最後は「SR サイタマノラッパー」。ライムスター宇田丸師匠に唆されて観に行くことになった映画。
 全くのノーマークながら、これが本当にすばらしい「青春映画」で、平凡な地方都市の片隅で生きるダメな男の子の日常とその小さな変化を描いている。如何にもBボーイな格好した青年が最初のシーンからラップしまくりなので(チラシの写真もいかにもな絵図等)、ダメな人は問答無用でダメになってしまうと思うのですが、少し我慢して観続ければ、これが本当に良い話だとわかる。
 人生に一度はあるモラトリアムな時代の言葉にはしがたい濃密な人間関係。人生を通して付き合っていく「モノ」を見つけたことで訪れる変化。それによって失われる永遠。人は何かを得るかわりに、何かを失い、それを繰り返しながら「大人」になっていくという人生の機微みたいなものを、田舎でくすぶりながら、それでもラップ/ヒップホップが好きなIKKU(駒木根隆介)の姿を通して描いている。
 でも決して説教臭い内容ではなく、主役のIKKUもその友だちでラップグループ「SHO-GUN」のメンバーであるTOM(水澤伸吾)、MIGHTY(奥野瑛太)はみんな「ダメな」若者で、そのダメさをそのままの形で描いている。中盤のヤマである市民集会でのパフォーマンスとその後の質疑応答の場面は、コメディとして1級品の出来。腹抱えて笑いました。
 あと幼なじみで元AV嬢の小暮千夏(みひろ)との決して交わることの無い関係も甘すぎず吉。
 完全に低予算映画なので、お話をスムーズに進めていくために必要なパーツ若干足りていないという欠点はあるものの、クライマックスの居酒屋でのフリースタイルラップは、若い頃に何者にもなれなかった男の子が最後に自分をつかみ取る姿を巧みに日常の中に埋め込んでおり、映画が終わった瞬間、自分が主人公を愛してしまっていることに気付かされる、そんな素晴らしいシーンだったと思います。(ゆうばりで賞を取るのも納得。この映画は誰かが褒めてあげる必要がある映画だと思います。)
 小規模公開なのですでに上映が終わっているところが多いかもしれませんが、近所でかかっている映画館がある人はぜひ観に行ってください、お薦めです!!。