「The Who:アメイジング・ジャーニー」

 イギリスのバンド、The Whoのドキュメンタリー。
 どうやら監督がアメリカ人らしく、大変分かりやすくWhoの歴史が学べる2時間。メンバーの生い立ち(当時の時代背景)から始まり、バンド結成、成功と挫折、解散を経て再結成から現在へ至るまでの道のりをサクサク説明的に進んでいきます。
 僕みたいにWhoに関して基本的な知識も無い人間からすると見応えのある2時間だったと思いますが、従前のファンからするとメンバーの昔語りや関係者のインタビューばかりで、少し物足りないかもしれないと思いました。
 特に面白かったのが最後の30分で、なぜ90年代の終わりから再び活動を開始したのかについて、その理由が率直に語られていて印象的。仲が悪かったけど、メンバーの経済的な状況を救うために必要だったと認めてしまうところがカッコつけていなくていい。またこの再結成を景気に、最も相容れない存在として決別していたピートとロジャーが強く結びついていく。この辺りの展開は前に観た「スティル・クレイジー」という映画と同じだなと思いました。
 それと80年代に解散する直前のThe Whoの演奏が流れるのですが、それまで演奏やステージ上でのアクション、ファッション(見た目)に至るまで非常に攻撃的であったピート・タウンゼントが、クラプトンばりに大人しく歌い演奏する様は少し痛々しかったです。(衣装も浜省的な袖を切ったシャツだった。)
 それと印象的なのはドラマーのキース・ムーン。わずか32歳でドラッグで亡くなるんですが、彼は若い頃はかわいらしい容姿をしていて、そのドラミングはパワフルなんだけど、どこかやんちゃな子どものような感じでキラキラしています。「トミー」の成功以降、ドラッグ、SEX、アルコール(ロックだなぁ)に溺れる生活が行き過ぎてしまい、コスプレ(SMルックが強烈)趣味全開のデブに成り下がっていく姿がまた痛々しい。あんなに綺麗だった少年が30ちょっとで、皆川猿時になってしまうなんて....合掌。
 あとバンド内の人間関係の面白く、映画自体はバンドの創作の根本を成していた3人(ギター、ベース、ドラム)の天才的な面が強調されています。それ自体は当然のことなのですが、対照的に扱われるのがボーカルのロジャー。The Whoの前進となるバンドは彼が結成し、売れるまではロジャーが中心なんですが、バンドとしてThe Whoが確立されていく過程で、ロジャーはだんだんと阻害され、歌っているだけの存在になっていきます。一度は追い出されかけたロジャーは大変に反省し、他のメンバーに気を使ったり、バンドにいられるにはどうしたいいのかを一生懸命考えて努力します。
 メジャーになってからのThe Whoは、作曲をするピートが中心になって回していたようで、ジョン(ベース)とキース(ドラム)の二人とは互いに尊敬し合って繋がっているのに、ロジャーはやっぱり蚊帳の外。ところがこの2名は典型的なミュージシャンタイプで、演奏することと個人的な楽しみ以外には基本的に感心がないので、創作のプレッシャーに苦労するピートは結局一人で全てを背負い込むことに。ミュージシャンとして繋がっているジョンとキース、それには入り込めないロジャー、その対比がスゴく印象的で、そんな状況にありながら、それでもバンドを信じてついていくロジャーにちょっと感情移入してしまいました。
 ピートあたりに言わせれば、彼は唯一才能のない人(ただ歌を歌っている人)になるのかもしれないのですが、The Whoというバンドを本当に愛していたからこそ、今現在に至るまでそこにいることができたのではないかと感じました。(後半は本当にロジャーよりの作りだな。)