「ミラーズ」

 アレクサンダー・アジャの新作。主演は何をやってもジャック・バウアー呼ばわりされるキーファー・サザーランド。(もう何やっても拳銃構えた瞬間に「24」だな。)
 同僚警官を誤って射殺したことで停職中のNYPDの元警官ベン(キーファー)は事件のトラウマからアルコール依存症となり、現在リハビリ中(しかも不眠症らしい)。家族とは別居状態で、バーで働く妹アンジェラ(エイミー・スマート)のところに居候中。なんとんか立ち直らんとして、やっとのことで見つけた新しい仕事は数年前放火事件で消失したデパートの夜間警備の仕事だった。
 とまあ、70年代から80年代の前半頃までのホラー映画によく似ているというか、この手のジャンル映画が大量生産されていた頃にはよくみられた設定で、映画の内容も基本は「ゴーストハウスもの」の定石をなぞりながら進んでいきます。(原作の韓国映画は未見。)
 現代的な要素としては、主人公が精神状態の不安定により治療用の薬物に半ば依存状態にあることや、病気が原因で妻エイミー(ポーラ・パットン)や子どもと別居(離婚が前提)していることで心理的に追いつめられているなど、この辺りをさらりと説明しながら、「シャイニング」の主人公がそうであったように、ベン自身が本当に怪奇な現象を体験しているのか、それとも全てが被害妄想からくる幻覚なのかが曖昧なまま進む前半はサスペンス調で非常にスリリング。
 また、肝心の廃屋となった建物(メイフラワ−デパート)内部で、鏡にまつわる様々な恐怖体験についても、監督が非常にわかっている男なので基本的に見せ方が上手い。ジャンルものとして良く目配せが利いていて、薄暗い廃墟の中をゆっくりと、それでいて見せすぎない程度にカットを割りながら、「鏡」という小道具ノ特性を活かした演出で、怪異に翻弄されていくベンの様子を丁寧に写し取っていきます。最近よくある「大きな音でバンっ」という類の脅しもそれなりに多用されいるんですが、事前の溜めと流れの中での差し込み方の上手さがあって、他の平凡な作品で観られるような不快さはありませんでした。
 北米でのレイティングがどうなっているかは調べていないんですが、アバンのエピソードからキチンと血のながれる描写が行われており、焼けただれた女性の死屍や切り裂かれた傷口と流れ出る血といった痛々しい場面をしっかり写すことで、これはホラー映画なんだということを主張する姿勢に好感が持てました。
 事態の真相に迫っていく後半についていえば、これも正調なオカルトものをしっかりと押さえていて、過去にあった事件やその土地に渦巻いている曰く因縁をベースに、統合失調症患者の少女を「エクソシスト」に代表される悪魔憑きの話に変換すること、70年代のホラー映画に良くあったような目に見えない悪への漠然とした不安感が良く出ていて、非常に楽しかったです。
 クライマックスの地下施設での悪魔(ここは具体的な描写しないのがいい)との対決はB級ホラーという意味以上に良くできていたと思うし、オチも予想通りとは言え、ある種の絶望感があってよかったです。(ただあの尼さんに関してはもう少しフォローを入れても良かったとは思いますが。)
 また、主人公の自宅内で奥さんと子どもが鏡の中の魔物と闘う場面は、ムチムチの奥さんが半裸になった上にビショビショに濡れてしまうなど、ホラー映画のサービスがどんなものか本当に良くわかっている。(全然関係ないけど、息子の部屋に「ネギま!」と「ツバサクロニクル」のポスターがあるのは、やはりアジャがフランス人だからですかね?)
 確かのこれまで作られてきた名作ホラーからの引用と思われる場面も多く、「○○のパクリ」といった批判が出るのは仕方が無いと思いますが、ここまでキチンとした表現のレベルに落とし込んでいると言うだけでも、「ホラー映画」とは何かを全くわかっていないヤツらの作った作品より十分に評価出来ると思います。これからもアジャさんには本当にがんばってほしい。
 最後にこの映画の最大のポイントを。映画の中盤、主人公を取り巻く状況が一変する大きな事件が起こります。ここで重要な役割を演じるのがベンの妹アンジェラ。結局彼女は死んでしまうんですが、この死に方すざましい(明らかに映画として山)。CGである程度加工してはあるんですが、あんな死に方をここまで見事に演じるとはエイミー・スマートにはまた惚れてしまった。(今回も登場する場面は多くないんですが、非常にキュートで、なんとも言えない生活感がたまりません。)この場面だけでも観る価値ありなので、彼女のファンも、そうでない方もはなるべく観た方がいい1本だと思います。
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