「地球が静止する日」

 一言で行って非常に残念な仕上がり。出演しているキアヌ・リーブスジェニファー・コネリーは好きな俳優さんなんで、画面を眺めてる分には文句はない訳ですが、何ともストーリーと演出が良くない。
 50年代のSFのリメイクと言うことですが、今これをリメイクする意図がよくわからない上に、現代を象徴するような置き換えもなく、風刺的な描写にも乏しいのでSFとしても弱くなっていると思いました。好戦的な国務長官が中年の女性であるところなんかは、クリントン政権時代のオルブライトを意識していると思われるんですが、それ以上の意味はなくてキャシー・ベイツの安定した演技がただもったいないことになっていたと思いました。
 また、全般に演出に華が無く、ドラマ部分も全体的に平板で単調。ジョン・クリーズなど登場するだけで間が持つ俳優が出てきてもそれだけで終わってしまう。また、クラトゥとの哲学的なやり取りもそもそも分量自体が少なく、思考実験的な深まりや現代性まで行ききれない。これだとたまたま知り合った人がいい人だから、クラトゥは心変わりしたようにしか見えない。
 特撮的にはそれなりに観るべき部分はあるものの、それ以上でもなくそれ以下でもなく。というか、画自体がいつかどこかで観たモノが多く、オリジナリティに掛けていたのも事実。話題の「ロボ」もオリジナルを大切にしているからあのデザインなのはわかるんですが、大して暴れるわけでもないので、小型化して終わりという残念さ。
 一貫して何がいいのかわからないまま映画が終わってしまいます。「エミリー・ローズ」も超現実的な事象を媒介に人類的な、宗教的な哲学的なことを語ってみせると言うのが、監督のスコット・デリクソンの狙いなのかもしれないのですが、今回も前回同様肝心なところで上滑りしている。たぶんこの人はジャンル的にはこんなお話が好きなんでしょうが、目に見えない何かを使った話をやるには資質的に何かが掛けているのではないかと考えてしまいました。演出上の張ったりの利きの悪さや華の無さは致命的で、そういう部分で上手い嘘を付けない人の作品は決して面白くはならないと思います。
 日本では宣伝の上手さでそこそこ客が入ったようですが、アメリカ本国では失敗作の扱いということなので、デリクソンに次回作があるかは未定(合掌)。まあ、主演のキアヌはこんな映画に好んで出る俳優なので失敗ではないでしょうが。
地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)

地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)