闘う社長降臨!(でもトライダーG7ではありません)

 83本目、「アイアンマン」。


 本年度アメリカ本土では、アメコミ原作(アメコミ的なものも含む)が割と興行的な数字をとっていて、その中でも現時点で1番は「ダークナイト」なんですが、それまでの1番がこの「アイアンマン」。サマームービーとして公開された作品なのに、原作が日本ではほとんど知られていないせいか、3ヶ月以上経った9月の終わりにようやくの日本公開。「ダークナイト」が5億ドル以上を稼いだオバケ映画ながら、その陰鬱な内容からアメリカの病み具合が類推されたわけですが、じゃあそれまで受けていた「アイアンマン」は如何にということで、公開初日に鑑賞。
 感想はと言われて最初に感じたのが普通に「面白い!!」の一言。2時間オーバーの若干長めの尺ながら、全体のバランスが非常に良く、シリーズものの1本目にはありがちな説明だけでお話が終わってしまうようなことも無く見せ場もふんだんにあり、ユーモア、恋愛、メカとある意味娯楽映画としてどこへ向けても打っても的に当たるという感じ。
 加えてトニー・スターク役のロバート・ダウニー・Jrが独特の存在感でキャラを見事に肉付けしていて、物語に説得力を与えている。あの嫌味のない2枚目ぶりと演技じゃない可能性も高いだらしなさが好印象。社長秘書ペッパー(グウィネス・バルトロウ)、副社長オバディア(ジェフ・ブリッジス)、友人であり兵器調達部門の軍人ドーディ(テレンス・ハワード)と脇役陣も手堅く、俳優でもある監督ジョン・ファヴロー(運転手役で自身も出演)は、アメコミの閉鎖的な楽しさに寄りかかること無く、キャラ同士の掛け合いに重点を置き、1本の娯楽映画として楽しめる作品として仕上がっていた思います。

  • まず最初に書いときます。たぶんトニー・スタークは自覚がないだけで、ミュータントかメタ・ヒューマンだと思います。知らない間にアダマンチウム合金の骨格が入っているか、ウルヴァリンと同じ超回復能力の持ち主であることは間違いありません。(マーベルだけに)
  • だからマッハで飛んだり、その上であんな急制動かけたり、スゲイ高い所から落ちたり、戦車の砲弾に直撃されたりしても、中身はぐちゃぐちゃになりません!っていうか、試作段階(マーク2)の飛行実験で、自宅のガレージで一度死んでるよね。(21世紀になってあんなトムとジェリー的表現が観れるとは。)
  • 非常にダンディでチョイ悪なトニー社長ですが、そう観えるのは演じてるのがロバート・ダウニー・Jrであるからで、その行動をよく観察してみると、自宅の地下のガレージでコンピューター(AI)相手に独り言をいいながら、作業用ロボットといっしょにパワードスーツを自作しているというのは、ギーク(理系の技術オタク)そのもの。夜な夜なカジノで散財したり、とっかえひっかえ女遊びをしているというような設定はあるようですが、実はワーカホリックDIYなオタクというのがホントの所でしょう。ITで成功したので羽振りはいい(スポーツカーが何台もあったりしてね)が、その実は真面目で機械が友だちな人に見えました。(ビル・ゲイツとお友達だったりするしね。)そういう意味では金持ち具合が板についていて、嫌みなブルース・ウェインマイケル・ケインな執事までいる)とは違って親近感をもつ人が多いのではないでしょうか。
  • だからこそグウィネスのような「美人なお姉さん」的秘書が甲斐甲斐しく日常的な世話をしてくれるなんて、まぁ素敵ということになる。トニー・スタークはプレイボーイのはずなので、彼女も既にお手つきになっていても可笑しくないのに、二人の関係が極めてプラトニックなのはある種の願望の表れだと思います。でも、互いにツンデレな関係の2人の様子にニコニコしてしまいました。
  • 原作コミックについてはほとんど知識が無い状態での鑑賞だったんですが、もっと右よりの設定かなと思っていたんですが、その辺りの政治性はキレイに拭われていて、あくまでもスターク社内での覇権争いが中心。お話としては極めて平均的なヒーローものなので、中東・アジアの武装ゲリラの描写があくまでも典型的なハリウッドの悪者であったり、どこまでも上から目線(アイアンマンは空からくるのでそれは仕方ないか)の問題解決の方法であるなど、現実とリンクすることが当たり前になった最近のアメコミものとは明らかに違ったものになっていると思います。
  • でも、普通映画を楽しみたい人にはむしろそちらのほうがいい場合もあるので、「ダークナイト」と同じである必要はないかと思います。「現実批判」という姿勢が、かえって政治性となり「娯楽」にとってのノイズになることはままあることなので、ユルい世界観(マンガだよ、マンガ!)のヒーローものを楽しみたいという意味では正解だと思いました。
  • でも、せっかくなら戦争状態を維持することで利害が一致している政府・軍事企業・傭兵による遠大な計画に対して、技術者として絶対的な力を有した兵器(戦局を一気に決めることが可能な最終兵器的なもの)を開発してしまったトニーを、オバディアを中心にアメリカ軍やアフガンゲリラに偽装した民間戦争請負会社が暗殺しようとしたというような話にはできたと思う。(原作にあるといわれる愛国的なヒーローという設定は壊れますが。)
  • マーク1〜3までのスーツのデザインや描写、最後に登場するアイアンモンガ−(こんな名前のはず)などメカ描写は良かったと思います。特に自宅ガレージ内でスーツを設計する時のコンピューターのインターフェイスとか(3DでヴァーチャルなCADになってもゴミ箱は健在)、スーツ装着の場面とか秀逸で男の子的にも満足。このあたりはCG担当のILMの得意分野で、現実世界にはないオブジェクト(キャラ)を質感共々、フィルムにぶち込む技術の高さはさすがだと思いました。ただし、ストーリーの中で実際にアイアンマン(スーツ)が活躍する場面が思いのほか短く(特にクライマックスの対決シーンが淡白)、実は生身のスタークと彼を囲む人々とのやり取りが中心になっているのは、演出家がそちらをより重視した結果ではないかと思いました。
  • ただその辺で食い足りなかった方は、スカレットレター社製のエンドロール(あぁ〜懐かしき解剖図の世界)を堪能することで補えばいいと思います。
  • あと最後までオバディアの役がウィリアム・ハートとだと思っていたのは内緒。それと続編では、テレンス・ハワードさんがスーツを着そうです。(絶対に着ます、っていうか着てください。)
  • アメコミと言えば忘れてはならないある大物俳優が最後に登場するにはご愛嬌と言うことで。(この人ってこういう時はギャラはどうしてるんだろう。)

 ティム・バートンが1本目の「バットマン」をヒットさせて以降、アメコミヒーローにはきちんとした理由や行動に対する自問自答、現実世界との距離感など、いちいちいろんなことに対応する必要が生まれ、それは荒唐無稽な物語を単純に楽しむという娯楽本来の楽しみ方に良くも悪くも多くの枷をはめてきたと思います。
 そこら辺のハードルを上手く超えることができず映画としてイマイチな作品が量産されてきたという事実は否定しがたいと思います。今年で言えば「ダークナイト」のような作品は何年に1本生み出されるかどうかの特異な例でしょう。
 マーベルコミック社製のアメコミ映画では、上記のようなアプローチで成功した映画は今までほとんどありませんでした。例外としてブライアン・シンガーが監督した「Xメン」2本ぐらいはそれに当たると思いますが、サム・ライミ監督の「スパイダーマン」が登場したことで、現実世界との間に精密な整合性をもった脚本でなくても、アメコミを描くことできることが証明されたと思います。息のつまりそうな窮屈な空気ではなく、荒唐無稽が良い方向へ行った作品としてユルく楽しむべきかと思います。
 「アイアンマン」と「インクレディブル・ハルク」を観ると、今後マーベル社は自身の展開している世界観を次々と映画化していく壮大な計画があるようで、「娯楽」と「リアリティ」とをユルく結んだ上で、面白さを追求した作品が展開されていくんでしょう。その結果としてどんな作品が生み出されていくかは楽しみだと思います。
 対して「ダークナイト」の成功で、DC社のラインナップは今後もある種のリアリティを担保しながら苦悩するヒーロー路線(「スーパーマン」もシンガーがやったことでこの方向に行きましたし)を展開することになるので、そのどちらのアプローチが受け入れられていくのかがちょっと楽しみです。