お疲れさまでした、後は息子さんが引き継ぎます。

 52本目、「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」。

 スピルバーグという演出家は「エンターテイメント」に根ざした表現をさせると、今でも世界一だと思います。だから、あまり社会的な題材や歴史に関係したネタを作品を撮るのはむいていないと感じていました。
 しかし作家として成長していく中で、スピルバーグも「娯楽」を脱ぎすて、「カラーパープル」から始まる大人の巨匠としての一連の活動が始まり、それは「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」、最近では「ミュンヘン」へと帰結していきます。
 でも、僕はこれらの作品があまり好きではありません。なぜならそんなに面白くないから。
 真面目な映画を観たいなら、彼以外の作家の作品を観ればいいのです。無理して撮れない種類の題材を撮っているのに、それを有り難がって観ることはないのです。では、どうしてこんなことを感じるのでしょう。それは、やはりスピルバーグの資質に関係していると思います。
 彼は、どんなにシリアスな題材や演出をしても、エンターテイメント性が画面からにじみ出てしまうから。
 どんなにがんばってもシリアスになりきれていなかったり、シニカルな表現が出来ない。(あるいは一生懸命にそうしているのにそうは見えないという感じ)
 その上どうしても映画的な快感が画面を支配してしまうので、ある種の問題意識や悲壮感といったテーマを訴える上で必要な背景が、その楽しさに負けて吹き飛んでしまう。
 結果として表現全般が軽くなってしまうのだが、作っている彼自身は真面目な映画を作っているつもりであり、決してふざけたり、楽しさを優先しているわけではない、ただ、そうなってしまう(そうフィルムに焼きついてしまう)のだ。

 「マイノリティー・リポート」や「宇宙戦争」は、久しぶりに娯楽に帰ってきた作品なので期待してみたんですが、社会派作品よりよっぽどマシな内容だと思いながらも、「はぁ〜」とため息。「宇宙戦争」は準備期間が短かったため、後半がグダグダになってしまったのが残念でしたが出来はそれなり。(前半は良いですな。)でも問題は「マイノリティー・リポート」。
 中盤のトム・クルーズの逃走場面で行われえる目玉のギャグの古さに、僕は閉口してしまいました。いまさらそれか!っと。(スカシしたギャグではなく、そうすることが面白いと本気で思っているでしょ。
 全体を覆う古さ、今であることを訴求しないという態度は、ビックバジェット自主映画であった「スターウォーズ1〜3」にも共通していて、今回スピルバーグ×ルーカスで何が出来上がるかと考えたら、想像通りのものでした、というの第一の感想。
 壮大で、予算をかけた「インディもの」の同人誌。それも作者が原作者という、ある意味ファン以外が楽しめる要素が皆無に等しい内容。その上、主人公のその後の話という同人活動では定番の2次創作ネタという手の込みよう。(スターウォーズも前日譚という意味では同人的。)
 まあそれでも、オリジナルキャラが一人ぐらいいないとさびしいということで、ケイト・ブランシェット演じるイリーナというロシア軍人(得意技は接触テレパシー)を配する という中二病。お見事としかいいようがない。(ネットと観ているとにイリーナ萌えている人が結構多い。)
 本当にニッチな楽しみ方ができる作品なので、上記のような要素が好きな人、約20年ぶりのインディを無条件に楽しめる人は絶対に観た方がいいですよ。 (僕はそうでもなかったです。)
 ここで幾つか気になった点を。

  • まず、ケイト・ブランシェットがオリジナルキャラをやるという点。最近は完全に物まね俳優と化していたので、それなりに楽しみにいったけど、良く考えると、今回もステロタイプなロシア軍人の物まねというオチ。仕事的にはさすがとは思いますが、このままで本当にいいんでしょうか。
  • スピルバーグの映画といえば、大人の女の趣味が悪いというのが定番ですが(少女は除く)、今回はケイト・ブランシェットが少し踏ん張るも、ヒロインが年老いたマリアン(カレン・アレン)ということで、結局相殺。でも、大人の女への不振は引き続きということで、イリーナは無残な最期を遂げます。これは「3」と同じですな。(道中もイヤなヤツとして活躍。)
  • 我らがインディことハリソン・フォードは、しっかりお年を召していて、なかなか辛そう。「3」のショーン・コネリーとかぶる役どころなんだけれど、コネリーのような躍動感はなく、くたびれ具合がちょっと残念。年をとっても存在感が落ちないジョン・ハートに喰われ気味でした。
  • 撮影は完全にスピ組みのヤヌス・カミンスキー。前3部作のダグラス・スローカムの表現を再現して見せるすばらしい職人ぶり。しかしこの人は、ほとんどスピルバーグとしか仕事をしないんだけど、こんな形の実績の積み方をしてるのはもったいないと思う。もっと自分の為に映画を撮っていただきたい。
  • 全編を覆う古さは、再現という言い訳を超えて、もうどうしようもないところまできていると思うのですが、スピルバーグ以外の演出家がやったら箸にも棒にもかからないという状態。
  • インディをもとにしている「ハムナプトラ」や「ナショナル・トレジャー」の方がマシに見えるところもあったと思うし、何よりピーター・ジャクソンの「キングコング」の南海の孤島での逃走場面がいかに良く出来ていたかを再確認した思いがしました。
  • あとオチについては、一部で不評というか「どうしてそうなるかわからん」という声もあるようですが、かつて流行っていたこういう映画が好きな人にとって、あれは正しい落し方であるとは思います。
 最後に僕の一番好きなインディは、「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」です。(ジェフリー・ボームの脚本が好き)
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