殺人の衝動

 46本目、「Mr.ブルックス 完璧なる殺人者」。

 非常に丁寧に作られた作品で遊びが少なく、タイトでいい緊張感を持続することに成功していました。その代わり、丁寧すぎてテンポが悪いという面があったと思います。(どっしりと構えた本格派とも言えますが。)
 社会的に成功した企業家アール・ブルックスケビン・コスナー)には、人には言えないもう一つの顔があった。それは殺人への衝動で、普段の自分とは違った容姿と価値観を持つもう一人の自分マーシャル(ウィリアム・ハート)がいつも付きまとい、その暗い欲望を実行せよと煽り立てる。それをなんとか押さえ、普通の人として振舞ってきましたが、ついに誘惑に負けて殺人を実行していしまう。しかし、約2年ぶりの犯行に注意が散漫になっていたか、一つの証拠も残さぬはずの完璧な犯行のはすが、カーテンを開け放ったまま被害者を射つというミスを犯し、現場を目撃されてしまうのだ。
 と、こんな感じで始まる映画は、彼の犯行を目撃(撮影)した写真家ミスター・スミス(デイン・クック)の登場や大学進学のために親元を離れていた娘ジェイン(ダニエル・パナベイカー)の突然の帰宅といったサブエピソードを交えながら、「指紋の殺人鬼」として知られた彼を執拗に追う刑事トレーシー(デミ・ムーア)との関係を中心に進んでいく。
 殺人鬼でありながら善き家庭人であることを表すのに、問題の多い娘を利用するところは巧いと思いました。(娘が自分と同じ闇の持ち主であることとか。)また、好奇心から本物の殺人鬼を脅してしまいとんでもないしっぺ返しを食らうスミスには、そりゃしゃーないわと思う反面、人間の無邪気さがいかに悪に転じてしまうかをよく表現出来ていたと思います。(ジョン・マクノートンの「ヘンリー」を思い出しました。)
 ただ残念なのが、お話の本筋の部分が弱いところで、親へのコンプレックスから刑事をしているトレーシーとの絡みはよく考えてある反面、ちょっと都合の良い展開が多すぎて、それに絡んだオチはキレイ過ぎのように思いました。あとホワイトトラッシュのカップル(トレーシーを付けねらう脱獄犯)のエピソードはオチとつながっているとはいえ、散漫さの原因になっていたと思います。
 それと最後にある「どんでん返し」なんですが、最近の映画(特にハリウッド製)の悪い癖のようなものでそれ自体はオマケみたいなものですが、ブルックスの「殺人衝動」が実は「自殺願望」の表出ではないかと妄想できるところが面白かったです。
ヘンリー~ある連続殺人鬼の記録~ [VHS]

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