自分の文章のように少し長すぎ

 36本目、「さよなら。いつかわかること

 9.11テロ以降、アメリカがはまりこんだ泥沼のイラク戦争。もう5年の戦時下の状況が続いていると、直接の戦場でないアメリカ本土の社会情勢にも戦争の影響が影を落すようになっていると思います。
 最近日本で公開されるアメリカ映画には、9.11テロの頃の国内の様子やその後の社会情勢の変化を反映したような作品がまま観られるようになってきています。
 これはやはり映画やテレビなどの娯楽を主体としたメディアが、社会の雰囲気と不可分であることの証拠のようなもので、これから何年か何十年か経った時、あの頃(現在)作られた映画はイラク戦争の影響が色濃く観られるというような分析が、ベトナム戦争の時にそうであったように語られると思います。


 今回観たこの作品もそのような作品の1つ。ジョン・キューザック演じる主人公スタンレーは、妻グレースを戦場に送り出し、2人の娘ハイディ(シェラン・オキーフ)とドーン(グレーシー・ベドナルジク)を男手ひとつで育てている。
 彼は妻の身を案じる一方、彼女のようにできない自分にコンプレックスを抱いており、グループセラピーなどに参加してみるんですが、周りは女ばかりで孤独感を深めるだけ。
 娘たちとの関係は概ね良好ですが、12歳になる長女ハイディは、戦争のことを口にしない父親について、不満を抱いている。
 そんなある朝、スタンレーの元を2人の軍人が訪れる。彼らは妻の戦死を告げるのだが、あまりことにショックを受けたステンレーは呆然とし、どうすることもできないまま、帰宅した娘2人とともに旅に出てしまいます。
 あてど無く旅にでた一行は、次女ドーンの希望で、遠くにある遊園地へ。
 この後映画はロードムービーとして展開。ステンレーの実家によったり、途中泊まったモーテルでいろいろあったり、ショッピングモールで絆を確かめたり。
 問題を抱えながらそれを処理できない主人公。娘以外の家族にそれを打ち明けることもできない。その一方で長女は父親の態度から何かを感じとり、それを確かめるような行動に出る。
 主演のジョン・キューザックはいい役者さんなんだけど、何に出ても、どんな役をやってもほとんど同じキャラの人で、それがいい面でもあったけど、今回は見た目非常に匿名性の高く、どこにでもいそうな普通のお父さんを好演。
 長女ハイディ役のシェラン・オキーフは、新人さんらしいけど結構いい感じで、芝居も抑えたいい感じですが、見た目が良い。メガネ(角型)があってもなくてもキリッとした美少女ぶりで、将来が楽しみ。(でもネットで写真を探したら、今現在はそうでもない感じなのが残念。)次女役の子も自然さ重視の演技で、この辺の年齢の子役の上手さはさすがハリウッドといったところ。
 ストーリーはシンプルで、父親はどうのように母親の死を娘に伝えるかということの特化している。そのこと自体は悪くないんだけど、それまでの過程で描かれるエピソードがちと弱い。上映時間約90分の短さがながら、ロードムービーにつき物の出会いや別れも少なく、また登場人物の内面や関係性の変化が明確になる部分が薄いのが残念。
 目的地である遊園地が、ステンレーとグレースの思い出の地であったというタネ明かしは、彼は事実を伝えることを決心するフックとしては十分だったと思いますが、そこも少し引きが弱く、クライマックスの盛り上がりを作り出すにいたらなかったように思えます。
 あとYahooのレビューで書いていた人がいたけど、最後の告白のシーンで音声を消してしまった演出は、蛇足だったと思います。
 ロードムービーという形式を使って、日常生活の中のちょっとした変化を描く作品は多いです。この映画は戦争という背景をうまく使って、再生する親子関係を描こうとしたという意味では面白い内容だったと思いますが、如何せん演出と脚本が少し力が足りない。でもスジはよいと思ったので、今後この監督の作品は観ることがあるかもしれませんね。

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