ジャンル映画として正しさにたぶん予算は関係ない。

 21本目、「地球外生命体捕獲」
 あの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を監督したエドゥアルド・サンチェスの新作。完全な低予算映画(「クローバーフィールド」は公開規模に照らして言えば低予算というだけでキチンとお金をかけた映画)でB級魂溢れる内容。しかし、バカに走るのではなく、B級映画に相応した内容を丁寧に撮っている。
 あまり予備知識を入れずに観に行ったので、アダプテーションをここまではっきりと扱った作品とは思わず。
 15年前、森へ出かけた5人の少年は異星人に誘拐される。その内4人はもとに戻されるが、1人は行方不明のまま。無事(?)に親元に帰れた少年たちも、それぞれ過酷な運命を歩むことに。
 コディ(ポール・マッカーシー=ボーイントン)、デューク(ブラッド・ウィリアム・ヘンケ)、オーティス(マイク・C・ウィリアムズ)の3人は、自らの運命を変えたあの事件に落とし前をつけるため、長い時間をかけて罠をはり、1人の宇宙人を捕獲する。それは自分たちを攫った奴らの仲間。捕獲した宇宙人を調べ上げ、自分たちがどんな目にあったかを世に知らしめる。そのためには、最後の仲間であるワイアット(アダム・カウフマン)の協力を仰がなくてはならなかった。しかし、ワイアットは長い間他者との接触をを断ち、ひっそりと暮らしている。3人は彼の元を訪れるが、ワイアットは頑として協力を拒否。困った3人はなんとかワイアットの家に入り込むも、それは恐怖の夜の始まりに過ぎなかった。

 というように映画は始まる。ここまでの展開を見せられて、多くの人がこれがどれだけ予算の無い映画かがわかる。
 アメリカの片田舎、観たことの無い俳優、ボロボロのバン、個性的ではあるが安っぽい武器、ほとんどがワイアットの家の中か森という限定的な撮影環境。決して潤沢でない予算の中で、できることが積み上げられていきます。
 映画の冒頭、捕まった異星人が映らないこと(捕獲時は異星人視線、その後は袋の中)から、これはほとんど最後まで異星人が映らない展開(予算の関係)かと思いましたが、以外と計算されていて、見せない演出がキチンとされている。設定上も異星人の特殊能力がマインドコントロールということになっていて、直接観ると操られてしまうフックが効いています。(おかげであんまり見せなくていいよね。でも異星人は後半はバッチリ登場します。)
 以下、いつもの箇条書き。

  • やはり予算の関係で、異星人の造形はショボイ。しかし、グレイタイプをベースにして、より戦闘的なニュアンスを加味した姿は良いと思いました。でも、宇宙からくる生物はアメリカではいつもこんな感じだなあ。「クローバーフィールド」のアレもサイズは違うけど近い。ちなみに異星人は全身ミドリで、頭の真中に第3の目みたいな器官がある。
  • 切り株は無いけど、腹かっ捌いて内蔵(腸)を取り出したり、その腸で綱引きしたり、変な生体発信器が出てきたり、咬まれたコディがウィルスに感染して体が崩れたり、異星人の指をはねたりと、SFホラーの映画としては必要十分な描写がある。(っていうか、考えれば考えるほど「クローバーフィールド」と似ているな。)
  • 主人公のワイアットは元軍人なのか家の中に武器がたくさん。金持ちには見えないが、そういうことにはお金を使っているらしい。(ネタばれだけど、家の地下が爆弾だらけで、避難壕まである。)
  • デュークが、罵倒しながら万力を使って異星人の頭をギュっとするところが素敵。
  • 異星人がほとんど不死身で非常に狡猾。人間を巧みに手玉に取る(特に後半)。数的にも有利なはずの人間側が次第に追いつめられていく展開が、ほぼ室内だけの狭い状況で進むんですが、そこは見せ方が巧く盛り上がる。その上外を見せないことで、仲間がいつやってくるのかと言うサスペンス的な部分を盛り上げることにも成功している。
  • 最近のこの種の映画としては珍しく、CGの割合が少ない。異星人は基本的に造形物だし、内蔵や発信器などの小道具系も物理的なもの(腸で綱引きはCGかも)。崩れるコディもメイクも。最後の出てくる宇宙船と爆破だけはさすがにCG。
  • 主人公のガールフレンドが只のお色気要員ではなく、物語を引っ掻き回し、その上オチをつける部分で重要な機能を負っているところが意欲的で良かった。


 最初に書いたあらすじを読むと映画好きな人はある作品を思い出すかも。
 そう、これはスティーブン・キングの「スタンド・バイ・ミー」のその後の物語。死体を見るために森に分け入った少年たちがその後たどったかもしれない日々の物語。「スタンド・バイ・ミー」の物語は旅の過程とそこで明らかになる少年たちの現状を重要視しているので、かなり違うお話ではあるけど。
 正直全面的に成功している訳でないんだけど、事件に遭遇した少年たちがそれぞれの背負っている環境によって、さまざまな苦しみを味わい、それを取り返すために奮闘した結果、恐ろしい状況を引き起こしてしまうという意味では「スリーパーズ」や「ミスティックリバー」なんかにも通じている。
 まあ、ちょっと褒めすぎで、脚本の内容は異星人との格闘に重点が置かれているので、せっかくキャラのたった登場人物のドラマを完全には引き出せずに終わっているのは残念。監督と脚本家はまだまだ修行が必要ですね。それとロブ・ライナーフランク・ダラボンあたりが作品に参加していたら、以外と大化けしたかもとは思う。 
 
 少年時代に強烈な体験し、癒されることの無い傷を負った者たち。互いに対する誤解やちょっとした不和、大人になってしまっても変わらない関係性など、人間としての機微がちゃんとストーリーの中に入れこんであり、それが物語の展開と連動している。ベタと言えばベタとも言えるんだけど、描くべきことがちゃんとしていると、表現がどんなにチープな映画でも訴えるものがある。
 映画の最後、主人公のワイアットは死んだ仲間のためにある行動を取る。そして彼は同棲していた彼女ホープ(キャサリンマンガン)といっしょに旅立つんですが、それを過去の呪縛から解き放たれ、新しい一歩を踏み出したと見ることもできる。
 このあたりを押さえることができるかどうかということが、「映画」であるかどうかということに深く関わっているんではないかと同じ日に観た「クローバーフィールド」と比較しながら考えたことでした。

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