フランス製ドキュメンタリー

 15本目、「かつて、ノルマンディーで」、「動物、動物たち」。
 フランスのドキュメンタリー作家ニコラ・フェリベールの作品2本です。特集企画の上映で見ました。日本では、「パリ・ルーブル美術館の秘密」が公開されています。地味にヒットした模様。

 「かつて、ノルマンディーで」は「私ピエールリヴィエールは母と妹と弟を殺害した」というフランス映画(日本未公開)の 制作に参加した助監督時代のフェリベールの体験をベースに、当時の映画制作の現場や製作過程の苦労、全くの素人ながら俳優として 映画に参加した地元住民のその後、主演俳優(新人)の行方など、その映画に関わった人々がどうなったかが描かれます。
 題材となっている映画それ自体はたぶんそんなに有名な作品ではなく、19世紀のノルマンディー地方で実際にあった 1つの事件を元にしています。(内容は映画のタイトルのとおり。)
 映画に関わった人たちの大半は、その後も普通に生活をしていて、今でもノルマンディーに住んでいる。フェリベール自身はドキュメンタリーの世界で成功して、今現在に到る。当然ドキュメンタリーなので、インタビューや当時の資料、監督自身の記憶などが、撮影された映画本編とともにつづられていきます。

 全編かっちりと構成されたメイキングものと言えるんですが、何せ題材に思い入れが無い上に、非常に単調なので、意識が無くなることが何回かありました。そのせいでオチの部分がわからないんだけど、もう一度見ようとまでは思わない作品でした。ただ語り口がうまいので、いろいろと参考になる作品だとは思います。
 そんな中でも面白かったのが、主演俳優のその後。デビュー作でそれなりの評価を得た彼は、その後パリに出て、本格的に俳優活動を始めるんですが、芸能界の水に馴染めず、すぐに引退。その後、紆余曲折を経て、今はアメリカで宗教活動中。日本にもこういう人はいるので、洋の東西を問わず、何かに挫折した人の行く末は共通しているなあと思いました。(でも、映画の中の彼は幸せそうでした。)
 あと、映画の中にノルマンディーのお百姓さん(家畜を飼っている)の姿がインサートされます。ブタの出産から始まり、それが大きくなり、食料に なるまでが描かれるのですが、これがリアル「いのちの食べかた」。
 母ブタのお腹から子ブタがひねり出される場面から始まり、なかなか起きない生まれたての子ブタに蘇生を施したり、何か(健康に育つために)を注射したり、成長したブタがある場所に連れて行かれ、額を叩かれ悶絶、一気に首を裂かれ、内臓を取り出され、半身になるまでが映し出されます。
 「いのちの食べかた」では、機械化された工場で生産される商品でしかなかった家畜が、本当はどのように肉になるのかが、農民の生活の一部として 丁寧に撮られています。結局、そのブタは飼い主の結婚式のご馳走になるわけなんだけど、そういった意味でもキチンとオチが付きます。

 もう一本は、これも死んだ動物の姿がたくさん映る映画(こう書くと誤解を生むなぁ)。フランスの国立博物館の立て替えに密着し、古くから伝わる多くの 動物標本(剥製)が館のリニューアルに伴い、洗われ、修理され、きれいに甦る姿を描いています。剥製標本の運び出しから始まり、館の解体や剥製の修理場面などが登場、博物館に収蔵されていた貴重な剥製がたくさん写されます。面白いのは、その剥製の姿をカッコいいアングルとライティングでひとつひとつ見せて、つないでいく場面。
 本来は死んでいるので、表情の無いはずの剥製たちがまるで生きているように見えるのが不思議。
 これは同時上映だった「行け!ラペビー!」でもそうだったんですが、編集やつなぎ方の文脈が非常に旨いのでスカーンとつながって、意味が鮮明になる。
 「行け!ラペビー!」は往年の自転車選手であるラペビーが活躍している姿が、異なる時間軸で提示される。競技中の映像や当時のインタビュー、今現在の彼の様子や自転車に乗る姿などがランダムにつなぎ合わされながら、その人物がどんな人なのか、どんな業績を残したのか、彼が多くのフランス人にどう思われているのかが、彼自身の人となりとともに浮かび上がる構成となっています。
 まさに見事という出来なんですが、「動物、動物たち」にも同様の手法が使われいて、命なきものに新たな生命の息吹が吹き込まれているような、これぞ映画という仕上がりだった と思います。

パリ・ルーヴル美術館の秘密 [DVD]

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