「ドゥ−ムズデイ」

 ここのところ、毎年のように「世界の終わり」の震源地となっているイギリスから、今年も同じような内容の映画が上陸。一般的な映画好きでも若干食傷気味のこの題材ですが、いや〜大変楽しい一品でした。
 監督は「ディセント」のニール・マーシャル。キャリアはそこそこながらも、ホラーやアクション映画好きには印象に残る映画を撮る人物。
 今回は謎の致死ウイルスに犯されたイギリスを舞台に、その感染拡大を抑えるために閉鎖されたスコットランド(大ブリテン島の北側)に潜入する女刑事シンクレア(ローナ・ミトラ)とその部下の特殊部隊のメンバーの活躍を描きます。
 まず、冒頭がゾンビ映画の定石を踏まえたすばらしい展開で、感染者の混じった避難民を容赦なく軍隊が皆殺しにする場面を中心に、現在の状況が如何にして生み出されたが、ゴア描写を含めながら的確に語られます。シンクレアは、元々閉鎖地区出身で、スコットランド封鎖の際に片目を失い、母親と生き別れになります。20年後、成人した彼女は凄腕の刑事として外の世界で生きているのですが、再び「死のウィルス」が猛威を振るい始めたことにより、閉鎖地区内の治療方法を探しに行く役割を与えられます。
 政府の組織した特殊部隊(医師2名を含む)を率いるシンクレアは、壁の向こう側に潜入。そこで驚愕の状況を目にするのです。
 とまあ、こんな感じで始まる映画なのですが、まず映画好きの観客は誰しも思うのが、主人公シンクレアの造形。戦闘中は片目にアイパッチをつけて、男勝りの活躍をするその姿は、「ニューヨーク1997」のスネークそのもの。またビジュアル的には「アンダーワールド」のケイト・ベッキンセールに似ているなと思ったいたら、「アンダーワールド:ビギンズ」に出ていた模様(ソリャ、似てるわ)。でもケイト・ベッキンセールよりはるかにアクション栄えのする女優さんです。
 これだけでも小躍りしないはずがないのですが、閉鎖されたスコットランド内で、シンクレアたちを襲う一団がモヒカン、アイシャドウ、金属製の鋲や棘の付いた衣装(当然破れだらけ)を着込んだパンクスという「マッドマックス2」もしくは「北斗の拳」の世界。それだけでワクワクが止まらない内容と成っております。
 その上ハリウッドメジャーでは絶対にできない、端的で派手な暴力描写が全編を通して展開される。銃で撃たれれば穴があき、血が吹き出る。ショットガンで吹っ飛ばされた体は粉々になり、中身が飛び出る。刃物で切れば、腕だろうが、首だろうがバッサリ切り離される。その上、車に踏まれた物は牛だろうが人間だろうがグチャっとひき潰されるなど、およそ最近のホラー映画でも目にすることが無くなった、ある種のジャンル映画にとっての華とでも言うべき描写が連続します。
 これは「リアルな表現」とは必ずしもイコールではないのですが、暴力を扱う映画には絶対に必要な要素で、レイティング(興行)の関係で、メジャーな映画ではスッカリ死滅したともいえる表現なのですが、それが何の衒いも無く行われ、映画の中で機能している様を観るのは、80年代から90年代の前半にかけて、様々ないわゆるB級映画を楽しんだ世代としては本当にうれしい限り。
 自分が若い頃好きだった映画を、とにかく自分の思うがままに再現してみせる。「ドゥームズデイ」にはそんな素直で、絶対的な熱が隅から隅まで詰まっているそんな感じです。
 それじゃあ、映画を観ていて個人的に思い浮かんだ元ネタを、映画の展開に沿って書いてみたいと思います。(あくまでも個人的な意見です。)冒頭(アバン)は一般的な「ゾンビ映画」なのですが、 とまあ、こんな感じで色々な映画から監督の感性にあった場面や設定が惜しげもなく引用されてます。
 最後のカーチェイスは、ジョージ・ミラーが「マッドマックス」シリーズで発明して以来、何人ものフォロアーを生んでいますが、ここまですばらしくそれを再現した映画は今までなかったと思います。その上、所々に乾いたユーモアが挟まっており、本家より遥かに面白い仕上がりになっている。


 ここからはちょっとネタバレになるんだけど、この映画は、一見して「ニューヨーク1997」や「マッドマックス」シリーズをひな形にしているということもできるのですが、そのホントのところは「地獄の黙示録」のリメイクでは無いでしょうか。
 政府の依頼で遥か彼方の土地にいる人物を探すという任務、探し出しす人物が軍の関係者で地の果てで文字通り王様になっていたりと共通点が多い。(その過程で主人公は色々な世界の実状の目にするし、彼女の仲間たちはバタバタと死んでいく。)
 無事(?)任務を遂行した後、封鎖地区内に残ったシンクレアがグラスゴーのパンクスたちの新しい王になるあたりの展開は「王殺し」をモチーフとした「地獄の黙示録」最後とかぶる。
 前半の「エイリアン2」の完コピに驚喜しながら、グラスゴー脱出後の牧歌的な展開は、ベトナムの川を遡るウィラードのよう。そこに中世の騎士が甲冑に身を包み表れるのは、イギリスがモンティ・パイソンの国だからでしょう。それと、家出した息子が都会でパンクになるのも、イギリスの伝統じゃないでしょうか。(笑)
 それにしてもニ−ル・マーシャルはごった煮に近い状態の作品を作りながら、巧みな語り口とテンポのよい展開、小気味良いアクション描写で、この決して小品とはいいがたい映画を仕上げている。前作「ディセント」が重苦しくシリアスな内容(基本はバカだけど)だっただけに、全編黒いユーモアに溢れた今作の作風は意外ではあった。しかしそのユーモアの部分が大変上手く、悪役を中心に見事なキャラ立ちの道具として利用している。
 その上サバイバルアクションの基本である主人公側の人間の出し入れも非常に巧みで、あくまでも女戦士シンクレアを引き立てながら、それで始末すべき人間はスッパリと処理し、それなりに意外な人物を生き残らせるなどさじ加減も上手い。
 こんなにしっかりとした映画が何で本国では失敗したかわからない(やっぱりレイティングが上がる描写のせいか、ウサギも吹っ飛ぶし。)ぐらい、充実した内容の映画なので、腑抜けた邦画を観にいく暇があったら、是非多くに人に見ていただきたい1本です。

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