「WALL・E」(字幕版)

 ピクサーの最新作。アンドリュー・スタントン監督といえば「モンスターズ・インク」、「ファインディング・ニモ」と世間的にも評価の高い人なんですが、僕自身はこの2本の作品については「普通」かなとしか思っていなくて、自分の中では他のピクサーの作品に比べて特別に好きな作品ではありませんでした。
 ピクサーのアニメ映画では、ラセターやブラッド・バードの作る映画の方が好きで、特にバードが担当した一連の作品はピクサーの多様性を大きく広げているので凄く重要だと思っています。そんなこともあってあまり期待せずに観にいったんですが、これがすごいことになってました。
 これは毎回思うのですが、画面の密度が異常に高い。
 やはりアニメーションなので、全部一から作ることになるんですが、それにしてもディテールの詰め込み方が尋常でない。でも、語りの中でキチンと理解出来るように作ってあるから、観る側が混乱することがない。ストーリーの流れに身を任せてしまえば、後は安心して「感動」というゴールまで行ける。
 この辺はピクサーの作品には共通しているフォーマットなんだけど、ブラッド・バードやラセターが理詰めでやることを、スタントンは映像の面白さ(説得力の高さ)や美しさでやっている。ラストのおでこを寄せ合うWALL・EとEVEのシーンは無機物同士の接触を描いているだけなのに、ものすごくエモーショナルな出来上がりなのがスゴい。
 しかしこの映画、他の人の感想を読んでいると、前半と後半の評価が真逆になることが多いようで、前半が好きな人は後半がダメ、後半がいい人は前半がダメと言った反応が多いようです。これは多分、前半が「廃墟サバイバルもの」で、後半が「ハードSFもの」(表現自体はハードではありませんが)であるということに起因しているんではないと思った訳です。
 多くの人が褒めている「前半」は最近流行の廃墟にひとりぼっちを見事に表現しているのですが、この描写の精度が生半可でなくスゴくて、「アイ・アム・レジェンド」も裸足で逃げ出すようなもの。摩天楼の中に積み上がった無数のゴミの山やそれを積み上げるための巨大なベルトコンベアのような機械。BNLという1つの企業に支配された世界の黄昏と終わったしまった世界の片隅で黙々と日常を積み上げているWALL・Eの姿に共感しない30代以上の人間はいないと思うよ。(その後の甘過ぎないラブロマンスも、そこまでの寂寥感が尋常でないから、より滲みる。)
 で、これと対照的な「後半」は、宇宙船アクシオム号の内部で展開される大活劇。ドタバタとした展開自体は子ども向けと思う面もあるんですが、m-oをはじめとした多彩なロボットたち、アクシオム号内部の様々な機能や内装のデザインなど、メカやロボに萌え萌えになれること間違いなし。本当にピクサーはSF的なデザインのセンスがいい、たまらん。「2001年宇宙の旅」からの引用をベースにした人類と機械、宇宙と地球というおなじみのモチーフが、アニメ好きよりもSF好きの心をクスグってしまうのではないでしょうか。
 でもこの辺は少しハードルが高いので、後半がつまらなかった人は単に前半の出来の良さにやられてしまったと言うだけでなく、もう少しSFというジャンルの知識を獲得すると、104分間最後まで面白いという幸福を味合うことができるので、これを機会にがんばってみるのもいいんではないでしょうか。
 お正月映画として満を持しての公開の割に、正直入りがあまりようくないようだけど、映画を好きな人はもちろん、そうでない人も必ず観るべき大傑作だと思いました。
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