結果報告(映画編その4)

 で、少し間が空いて、24日(月・振替休日)は 「かけひきは、恋のはじまり」はジョージ・クルーニー兄貴の監督2作目。
 僕の住む岐阜県の片田舎でもこんな作品がかかるようになるなんて、時代は変わったなぁとシミジミ。(でも客の入りはイマイチ。)CMや予告編等では完全に「恋愛もの」として売られていましたが、本当の内容はスポーツコメディ&中年讃歌とでも言うべきもの。劇場には年配の夫婦の方が多かったんですが、果たして満足出来たかどうかは疑問。
 面白かったのが、画面の感じやキャラ、ギャグの入れ方がコーエン兄弟が撮る面白くないコメディに良く似ていたこと。(クルーニー自体はコーエン兄弟のコメディには出演経験あり。)オフビートの乾いた笑いでスクリューボール・コメディをやりたいんだというのはわかるんですが、決して成功しているとは言えないと思いました。
 ヒロイン役のレニー・ゼルヴィガーの存在が段々付け足しのようになっていき、最後は男同士の戯れ合いになっているのはクルーニー絡みの映画ではいつもどおりのパターン。
 ただ、1920年代のアメリカの空気というか、かつて存在した「善きアメリカ」の牧歌的な雰囲気がいい感じでした。とりわけ、3つ揃いのスーツを華麗に着こなし、革ジャン姿でサイドカーを乗り回すクルーニーの姿は壮観で、こんなに「俺様」な映画を監督しておきながら、まったく嫌味を感じさせないのは、トムさんと違って、クルーニー兄貴の面目躍如といったところでしょうか。
 あと、「アイシールド21」を読んでいたおかげで、アメフトの試合を観てもも混乱しないというのが新鮮な体験でした。
 続いて、「僕らのミライへ逆回転」の2回目。前回は名古屋の劇場で観たんですが、たまたま岐阜ではこの週からだったので観ることに。やっぱりホッコリ心が暖かくなるお話。3丁目のなんとかいうファンタジーを観て喜んでいるくらいなら、これを観て泣けと心の底から言いたい。
 最後は、11月最も期待の高かった1本、「ブラインドネス」。
 ジュリアン・ムーア主演で終末ものと言えば、自然と「トゥモロー・ワールド」が思い出される訳ですが、帰宅後Yahooレビューや2ちゃんのスレを観てみると、案の定「トゥモロー・ワールド問題」が発生中。
(こちらのエントリーなどを参照:http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20061127#p1とかhttp://d.hatena.ne.jp/Dirk_Diggler/20061206/p1
 確かに今回もCM等では、どちらかというとウィル・スミスの「アイ・アム・レジェンド」的な宣伝の仕方をしていたので、「あんな内容とは...とほほ。」と落胆した人は多かったのはわからないではないですが、そこは「シティ・オブ・ゴッド」のメイレレスなので、キチンとアクション映画的であったり、クライムものであったりという点は押さえられていて、ちゃんと面白い映画になっていたと思いました。
 原因不明の奇病で人類文明が崩壊という状況の提示の仕方は、説明的なので飲み込みやすかったし、その後の閉鎖空間(収容所)でのお話や後半への流れはわかりやすかったと思います。それと全体としては、ダニー・ボイルの「28日後」に非常に似ていて、「28日後」の前後を逆転させた展開と考えればわかりやすい。(隠れ家を見つけながら移動→スーパーでお買い物などのスチュエーション、安全な場所には王様気取りの実力部隊がいたりとか。でもゾンビは出てこないんですけどね。)
 ただ原作がノーベル文学賞を穫った作家さんなので、案の定思考実験的なお話の展開とオチが非常に観念的であることに抵抗を憶える人も多いかも。(左翼的コミューンのような点も。)前半の収容所と後半の市街地での放浪など、割とキリスト教的なモチーフが多いのも日本人的はツライかも。でも一般的なレベルのキリスト教知識しかなくても、楽しめる親切な作りにはなっていたと思います。
 特に前半の収容所内の描写は、非常に整理された混沌が見事に映像化されており、暗く汚れた室内で人間性を消失し、状況に順応していくしかなくなってしまった人々を嫌味なく見せることに成功していた思いました。
 キャストも非常にバランスが良く、主演のジュリアン・ムーア(出演している映画が最近はアレな作品が多いので色眼鏡で観られがちですが、この人は演技派)、その夫マーク・ラファロ、元売春婦のアリシー・ブラガなど、皆それぞれのキャラクターを的確に演じていたと思います。ダニー・グローバーがいつも間にかおじさんキャラとして定着しているのおもしろい。
 あと、日本から参加の2名については、国内での仕事よりその実力が活かされていたと思います。でも、何で日本語の台詞にまで字幕が付くのか最初は不思議だったんでが、伊勢谷友介の台詞の滑舌の悪さにいろいろと気を使った人がいたんだなぁと何となく納得。
 ほとんどの人が失明した世界で、元々の盲人であった老人が王様のように振る舞っている様子は、リスキーな描写でありながら、ガエル・ガルシア・ベルナル演じる青年(的確ながらビックリするような物まねギャグあり)とコンビにすることで、人間存在の皮肉を見事に描けていた思いました。ただし、中盤の集団レイプシーンは、はっきり映さないという手法を使いながら、何が起こっているかがわかってしまうという点で、非常にイヤーな気分になるシーンでした。
 あと、後半の崩壊した都市の描写は、「世界の終わりの情景」好きには満足のできで、主にサンパウロモンテネグロで撮影されたらしいのですが、また素晴らしい情景が1枚増えたと少し心が躍ってしまいました。やっぱり中南米の都市空間が持つ独特のギガンティックな情景は、ヨーロッパや北米の都市のそれとはひと味違った面持ちを醸し出していて、スゴく良かったです。(路上で倒れた人間が犬に食われるあたりの描写をサラッと入れているあたりのセンスも抜群。) 
 人種、性別、年齢といった人間の持つ属性が、失明と言う事態の発生により意味を消失し、各人の中にその本質のみが残った時、人間は本当の平穏と相互の理解を得て、真の家族となるというのが、この作品のテーマだと僕は思いました。それ故に非常に観念的で、その上左翼的夢想だと拒絶反応を持つ人が入るかもしれません。僕は原作を読んでいないのでオチがどうなっているかわかませんが、神=キリストの化身としてただ一人「観える」存在であった主人公が、殉教すること無く、お話が終わったことは少し驚きでした。世界が変わったのか、人が変わったのかはこの映画では描かれません。でも、ラストシーンで、分かりやすアイロニーに逃げ込んだり、観客の受け取り方に投げっぱなしにせず、映像として監督なりの答えを描いていることに、僕は非常に好感を憶えました。時間のある方にはぜひ観ていただき1本だと思います。
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