プログラムなピクチャーを目指して

60本目、「純喫茶磯辺」。

 予告で観た麻生久美子のメイド服(?)だけが目的の鑑賞だったので、最初っからハードルの設定が
低い状態でしたが、それなりに面白かったです。直前に観たのが「百万円と苦虫女」というどうしようもない駄作(まだ言うか)だったので、相対的な評価は高め。
 では、いつもの感じで行きましょう。





  • 前にも書きましたが、これは仲里衣紗のアイドル映画として良くできており、彼女のコメディエンヌとしての資質をしっかりふまえた上で、だらしない今時の女子高生磯辺咲子をキチンと演じさせています。撮り方が悪いというのもあるのですが、「かわいい」と「そうでもない」の境界線上にあるような彼女の容姿が設定と良く合っており、かえって魅力的な人物になっているのではないでしょうか。また「時かけ」(アニメ版)が好きな人は、マコトを実写で観れるような感じなのでお薦めです。
  • いい加減な父親磯辺雄二郎役の宮迫博之は、コントのレベルを超えて役者として演技のできるお笑い芸人なので、作品中に登場するあらゆるお笑い芸人のなかで一番目立っているのですが、彼がだらしなく出鱈目な父親を熱演しても、カットによってお腹の出方が違うとか、コントの世界にしかいないようなだらしない中年男性のイメージそのまま私服を着ているなど、見た目(画面)上のリアリティがイマイチなので損をしていると思います。
  • お話のキモとなる素子(麻生久美子)は、それなりに良い演技をしていましたが、脚本上もっと派手に(極端に)立ち回った方がキャラが立っていいのにと思いました。従順でマジメそうに見えながら裏がある、嘘だって平気で尽くし、案外しっかり他人を利用するなど、美しい容姿とは裏腹に利己的で、打算的であるというギャップをしっかり描いた方が、それなりに上手くやっている親子の間に割り込んで、その関係をめちゃくちゃにしてしまう小悪魔的な面が強調できたのではないでしょうか。多分麻生久美子ならその程度のことはさらっとやってのける実力はあるし、嫌味のない面白い女性像が提示できた
    と思います。
  • その他にも作家志望のロリコンや素子ファンの客など、濃いめのキャラを随所に配しながら、あまり押し付けがましくなっていないのが良いと思いましたが、うっかり大金を手にしたダメ親父が勢い(下心)で喫茶店を開業、すったもんだを繰り広げながらも親子が新しい関係を築く(成長しなくてもね!)というオーソドックスな人情話だけではお話が弱く、フックとなる素子の使いかも中途半端、上記の様々なキャラもそこにいるだけになっている(主に喫茶店の客だから)のも事実。三木聡あたりが演出をしていれば、様々なキャラをお話に絡めながら、もっと短くても締まった感じのシャープなコメディになったのではないかと思いました。
  • 最ももったいないのが、濱田マリ演じる咲子の母で、映っている分量も多いし、濱田マリのよい雰囲気の演技や要所を締める役回りなどおいしい部分があるのですが、映画の中での比重が低すぎるので、思春期の少女が最も短な大人(異性)を理解する上での手助けとなる役目を果たしきれていないと思いました。あと濱田さんはもっと本格的に女優さんとして活動してもいいと思いました。(「血と骨」でもいい感じでしたしね。)
 コメディとしては作り込みが足りない部分もあるので、手放しで褒める訳にはいかないのですが、チャーミングな若手女優を楽しむもよし、キャリアを積んだ美人女優を観るもより、小粒ながらそれなりにじんわりできる人情話を楽しむもよしということで、時間がある方、日本映画を観たい方のはお薦めです。(宇多丸風)