ティーンエイジ・ファンタジー

 54本目、「JUNO/ジュノ」。

 遅すぎる感想ですが、そのうちDVDもでるので。
 はてなの感想を見て回った結果、映画を観ている間感じていた「ジュノって、オヤジ転がし上手え!」って思いが間違っていなかったと確信。
 これは監督のジェイソン・ライトマンの腕なのか、それともアカデミーとった新人脚本家ディアブロ・コディの手腕なのかが気になるところ。彼女は前職がストリッパーということで、悶々とした男(男の子)の欲望や願望に敏感なのかも。なんせジュノは興味本意で大して好きでもないポーリー(マイケル・セラ)とセックスして(それも騎乗位で自分から)、子供ができたとわかっても、泣きわめいて相手にすがったり、「責任とってよ!」って怒ったりしない。
 サクサクと事態を把握して、女友達と協力しながら、あくまでも自分の将来(生まれてくる子供の将来)を選びとっていく。その姿は観ていて清々しいし、力強い。そんな元気な女の子をあのエレン・ペイジがやっているのだから、楽しいくないはずが無いのだ。
 まあ、エレン・ペイジに関しては「ハードキャンディ」も良いんですが、むしろ「XMEN:ファイナル・ディシジョン」を観ることをお薦めする。映画自体については普通としか言いようの無い出来なのだが、この映画でのエレン・ペイジは登場場面自体は少なめながら、その存在感が一段違うと言うか、自然と目がいってしまう何ともいえない魅力を発している。凡庸とした他のミュータント学園出身の若いXMENの中で頭一つ抜けたぐらいの強い印象で、とうの経ってきたアンナ・パキン(かつては美少女)をも凌駕する色香を放っている。これを観て、あっ売れるわこの女優という確信を抱きました。
 そんなジュノちゃんが、これまたパッとしない(短パン姿で朝練している、それも陸上)を次第に本気で愛してくれるなんて、これどこで買えるエロゲーってな展開。
 前半はその破天荒で男気溢れるキャラにやられ、後半はある出来事を境に彼女自体が少し成長するという隙のない展開。最後に幸せになった彼女やその周囲の人々の様子が微笑ましい。
  • 年代的にいって、現在30代後半から40代前半ぐらいの人からみれば、ジュノは本当にキュートな少女に見えるだろう。ガス・ヴァン・サントの「パラノイドパーク」でも、ジュノみたいなパンク好き(というかこの場合はゴスロリ風ファッション)の文系少女がでてきて主人公の世話をやくんだけど、容姿的にはかわいくもなくブスでもないといった感じで、その割に主張の強い格好(ファッション)をしている。性的には魅力的ではないけど、世話好きで趣味の合うんで男としては付き合うのに楽だけどってタイプ。現実世界では多分こんな感じの子ほうがいそうなタイプで、エレン・ペイジはあくまでも映画の中の世界のこと。
  • 観ていて思ったのは、「10代の妊娠」というティーンムービーの中では割とありふれた素材を扱いながら、脚本レベルでお話の構造を大きくひっくり返しているのが興味深い。大体「早すぎる妊娠」についての物語は、当事者は不幸になったり、大きな壁にぶつかって困惑したりと、定番の展開から最後には何かをつかむ(それなりに現実的な落とし込みがなされ、主人公が何かを学ぶ)というものになりがちで、それ故にありきたりになってしまう。
  • でも「ジュノ」では、妊娠自体は大変なこととして描かれているが、決して主人公の未来を拘束してしまうような困難としては描かれない。その上堕胎するのか、出産するのかについても大きな葛藤は無い。この辺りは実は脚本が女性であるということに大きな関わりがあるのではないかと思う。多くの男性が質然的に感じてしまう「妊娠・出産」という行為に対する未知の恐怖がないのだ。
  • そのことに通じる部分として、ジュノの妊娠はスゴい勢いで周りの人間を変えていく。恋人であるポーリーをはじめ、ジュノの両親(特に継母)、また子供の里親になる予定の夫婦ヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)とマーク(ジェイソン・ベイトマン)など、いろんな意味で人生を見つめ直す機会を与えられてしまう。普通はこれが反対で、常識を振り回す周囲との認識の差の中で主人公が悩み苦しむと言うパターンがほとんど。それが迷ったり、考えを改める必要があるのはジュノ以外の人々であるとしたことで物語に新鮮さが出ている。
  • その事柄の象徴なのが、彼女に無関心だった継母(アリソン・ジャネイ)の豹変であったり、ジュノの行動から人を愛することを理解する である。でも最も象徴的なのは里親になりたいヤッピーの夫婦で、最初はどちらかと言うと機械的に子供を欲していたように観えるヴァネッサが次第に本当の母性に目覚めたり、妻のことを理解している良き夫であったマークが、本当が妻に負い目を感じてたり、捨てきれない夢を抱えて悶々としている様が暴かれ、ジュノという存在の出現がそれを鮮明にする。
  • マークについては、チャーミングなサブカル少女(趣味もピッタリと舞い上がる姿が痛々しい)の存在に、不覚にも家庭を捨てる決心をしてしまうなど、ダメ人間な本性が暴かれてしまい、そのイタさが目立つ。でもそんな大人の身勝手な思いに打ちのめされながらも、ジュノ自体はぶれることなく(簡単に男にお尻を振ったりせず)、見事に難局を乗り越えてしまう。素敵すぎる!(ここで初めてジュノ自体が何かを乗り越えて成長する。あとはオーソドックスなエピローグへ)
 まあ、それなりにいい点を書き連ねてきましたが、そりゃおかしな点もある。割とすんなりと進む養子縁組だとか、物わかりの良すぎる両親や学校、フェミニズム運動の成果の1つである中絶の支援が歪んだイメージで描かれているなど、あくまでもこれが「10代の妊娠」を扱ったファンタジーであるとして割り引いて観る必要はあると思います。
 見つめ合いながらギターを弾くラストシーンなど若干綺麗にまとまりすぎているようには思いますが、僕のような男では到底想像出来ないような女の子の力強さに酔いしれるだけでもいいのではないかと思いました。
 最後にエレン・ペイジ大好き!!