本当に見事な失敗

 43本目、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」。

 久しぶりに見事なブラックコメディを観たという感じ。ベテラン監督マイク・ニコルズは映画の冒頭から、辛らつな笑いを込めた表現を連発。
 ものすごく生臭い人物のはずのチャーリー・ウィルソンを何をやってもさわやかガイになるトム・ハンクスが。
 胡散臭さ満載のガスト・アブラコトスをイヤなヤツをやればやるほどリアルさが増すフィリップ・シーモア・ホフマンが。
 中年の色気満開のジョアン・ヘリングをロボットみたいなジュリア・ロバーツが、と非常にバランスが良い。でも、個人的に一番良かったのはチャーリーの秘書ボニーをやってたエイミー・アダムスだと思いました。

 過去の出来事とは言え「戦争」に関する映画なので、それを描写しなくてはならないわけですが、その部分にたっぷりの毒気が混ぜられていて愉快。
 ソ連軍のハインドがアフガンの地上を攻撃する場面あるんですが、操縦者視点でほとんどPS2ぐらいのゲーム画面みたい。ガンガン地上を攻撃して、アフガン人が無残に殺される部分が映し出されますが、ワザと重みのない表現を使っている。しかし、多分現代の戦争はこれは案外リアルな表現なのかも。
 映画の後半、アメリカの支援を受けたアフガンゲリラがスティンガーでハインドに反撃する場面。ヘリ自体はCGで作ったオブジェクトを画面にはめ込んでいるんですが、地上のゲリラの場面がどこの空き地で取ったんだといわんばかりのチープさ。その上ヘリを狙うゲリラはへっぴり腰で、まともに弾を打ち出せない。でも自動追尾機能で、見事ハインドを撃墜という表現が完全なコント。おまけにその後に2人同じようなゲリラが出てきて、遠くにほとんど静止しているようなヘリを打って撃墜。みんなで歓声を上げる。
 ヘリのほうはヘリのほうで、緩みきったパイロットが雑談しながら、「今日も住民虐殺」と軽いノリでやってると、スティンガーが飛んできてあぽーーんという感じ。
 これはどこのモンティパイソンかと。監督のマイク・ニコルズの意図は明確。
 他にも、アメリカの密かな武器供与によって華々しい戦果を上げるアブガンゲリラの様子が、撃墜数や破壊工作の結果をあらわす数字として実際の戦場を映した記録映像をバックに流れるとか、難民キャンプを訪れたアメリカの大物議員が、涙を流しながら「アラー・アクバル!」って叫んでみたりと、かなり辛辣な表現が多い。
 それでも、一人の男が何かを何した物語として見事に(皮肉に)着地してみせるあたりが、非常に気持ちいい1本でした。