「コントロール」は概ね正確であった

 38本目、「JOY DIVISION」。

 つい最近イアン・カーティスを中心にしたジョイ・デヴィジョンの自伝映画「コントロール」を観たんですが、今回はドキュメンタリー。
 内容的はというとジョイ・デヴィジョンについての事柄が中心であることはもちろんなんですが、加えてかつて工業都市であったマンチェスターが70年代の終わりごろどんな状態であったかの紹介から始まり、そこに住む人たちの当時の状況を通して、いかにしてその後のUKロックに大きな影響を与えたバンドが生まれたかについてが、俯瞰的に語られます。
 古い時代のフィルムや写真をふんだんに織り交ぜながら、現在のバンドメンバー(バーナード、ピーター、スティーブ)がバンド結成からイアンの自殺、その後のバンドの行方を語ります。
 また、ファクトリーレコード創始者トニー・ウィルソンやその周辺スタッフ(アントン・コービンも一瞬登場)、そしてイアンの恋人であったアニークまでが登場し、当時のバンドの内情や自身の状況を語ります。そのため、イアン・カーティスに特化したような「コントロール」とはいい対比になっていて、あくまでもバンドのドキュメンタリーとして成立しています。ちなみにイアンの妻のデボラは、彼女のコメントがテキストで紹介されるだけで、画面には一切登場しません。(それも対照的)。
 いろんな意味で「コントロール」との対比が気になるところですが、一番の違いはジョイ・ディヴィジョンというバンドどう位置づけるかということだと思いました。
 この映画では、完全にパンクの流れを受けて登場したバンドとして位置づけられており(特にバズコックスとの関係が印象的)、新しい何かというより、パンクの進化系であるというのがおもしろい。今までは、アート系のコジャレた音楽という印象を持っていたのですが、もっと計算のない、衝動から生み出されたものという印象が強くなりました。
 でも、きちんと音楽的に先進的な部分も紹介されていて、特に「アンノウン・プレジャー」については、プロデューサーのマーティンの実験が大きかったんだぞという感じ。でもバーナードとピーターが未だに気に入らないといっているのが、印象的でした。
 
 あとなんだか納得していしまったのがインタビューに登場するバーナードやピーターの姿。すごくミュージシャンらしく、常識や普通の行動規範にとらわれず、セックスやドラッグの体験、ツアー中の乱痴気騒ぎなど、ミュージシャンを彩る割とありがちな逸話などを披露。いつも物思いにふけってばかりといった印象の「コントロール」との対照的です。(まあこちらのほうが人間的に魅力的ですけど。)
 というか、そういう面(セックスやドラッグなど)がほとんど出てこなかった「コントロール」のほうが、今考えてみれば少し不自然だったのかもしれません。
 あと、イアンについてなんですが、サム・ライリーは本当に良くまねしていてすごいんですが、やっぱり全体的にカッコよすぎだと思いました。映画を観て僕が感じたイアンは、地味で努力家、良くも悪くの普通の部分が大きく、それを大切にしていた人ではなかったということです。
 上で書いたインタビューについてもいえることですが、やっぱりバーナードとピーターはよい意味で享楽的で、ノリや見た目、その場の楽しさやビッグになるというような野心を持っている感じがします。
 死んでしまったイアンが本当はどうだったかわかりませんが、彼が成功していくバンド内でなぜ大きなプレッシャーを抱かざるをえなかったのかは、生前の彼自身が自分の価値を正確に理解していなかったことが大きかったのではないかと思います。もっと自分の手にしたものをキチンと理解していたら、バンドを辞めたいというような気分にはならなかったのではないでしょうか。

 アントン・コービンはやはりアート界出身であるためか、文化を大衆的な解釈で描くことができず、その人物の特異性(世界変えるような才能)を際立たせるような方向で映画を作っていたと思います。それは当時の状況を知る者として、その目で革命的な出来事を見たものとして、当然のアプローチなのかも知れませんが、ことジョイ・デヴィジョンやイアンについては上手くいっていない気かしました。
 その点監督のグラント・ジーは、素直にこの偉大な足跡を残したバンドを捕らえることで(パターンどおりともいえますが)、結構その真実の姿に近づけたんじゃないかと思います。
 終盤、イアンの死を知った直後のことについて語るバーナードとピーターが出てきます。どうやら2人はお葬式に行かなかったようです。(スティーブンやトニーは列席した模様。)
 そのことを悔やんでいるピーターの姿は印象的です。でも、そのこと自体も彼ららしいエピソードとして捕らえられていてよかったと思います。
 映画はその後、バンドがどうなったか(ご存知のとおりニュー・オーダーになるんですが)を紹介して、何年かぶりの活動再開のライブでブルー・マンデーを演奏する(封印していたジョイ・デヴィジョンの曲も演奏したことが出てくる。)彼らの姿を映すことで、ちょっとした感動のクライマックスになっているのがよかったです。

アンノウン・プレジャーズ【コレクターズ・エディション】

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