アート系監督の新たな一面

 24本目、「パラノイドパーク」。

 これはガス・ヴァン・サントが最近得意としている10代についての映画。自我や内面の確立されるべき時期に現実世界のさまざまな困難がそれを妨げることになり、もがき苦しむ姿が映し出されてます。(「エレファント」はたぶんそう。「ブリー」は未見)
 主人公アレックス(ゲイブ・ネヴァンス)は最近やり始めたスケボーに夢中。友人のジャレット(ジェイク・ミラー)とつるんで、パラノイドパークと呼ばれる地元のスケボー公園に行くことが楽しみ。別居中の両親、しつこく言い寄ってくる彼女気取りのジェニファー(テイラー・モンセン)、楽しくない学校。不満がない訳ではないけれど、楽しいことがまったく無い訳でもない。そう、あの夜の出来事が起こるまでは。

 彼の映画に出てくる若い主人公には、セックスの匂いがしない。それは「ドラッグストア・カウボーイ」の頃から変わらない。「プライベート・アイダホ」や「カウガール・ブル−ス」(両方とも同性愛の映画)は直接的に性を扱った映画だけど、行為としてセックスはほとんど描かれず、むしろプラトニックな面が強調される。(以降の職人的な作品群も青年の生き方は描いてもセックスはほとんどない。)
 誰もがそうではないけれど、10代の半ばで、チアリーダーをやっているぐらいの容姿の彼女がいたら、男の子は早くセックスしたい、セックスするためだけに付き合いたいと思うのが普通だ。けれど、アレックスはそんなことに興味がない。むしろ彼女には、一方的に言い寄られているだけで、セックスしたい(処女を捨てたい)のは彼女の方だ。(性的に積極的で、半ば強引に彼の童貞を奪う。)
 最近覚えたスケボーに無中なアレックスは、女の子より自分の趣味が大事。完全にオタクなのだ。男の子のはいつになってもこういうことがある。「女=趣味」という趣向持ち主もいるけれど、異性以外のことが大事という部分があるものだ。
 ガス・ヴァン・サントの映画の主人公はこのパターンが多い。それはたぶんガス・ヴァン・サントの考える人間の純真さの現れだから。彼の映画に出てくる男はいつも迷っているし、道を探している。

 予告編の段階で完全にネタバレているので書いてしまうが、アレックスは偶然1人の人間を殺めてしまう。そのことを隠したまま日々の生活を送るが、自分の中に貯まった感情を処理しきれない。女友達であるメイシー(ローレン・マッキニー:ブスかわいい!)に相談すると、思いを手紙(日記)という形にして告白すればいいとアドバイスされる。
 アレックスはあの夜の出来事をノートに綴ることにする。手にしたノートの最初のページに彼が鉛筆書きしたタイトルが「パラノイドパーク」。

 撮影はクリストファー・ドイル(主人公の叔父としても少しだけ画面に登場)は、不安定で移ろいやすい主人公の心理を語る役割を担うため、さまざまな画質、スピード、視点の映像を撮影。ガス・ヴァン・サントはそれを巧みに積み上げていく。
 期せずして殺人事件を起こしてしまった当事者の告白を映像化しているため、物語は始めから終わりへと一直線には流れない。事件を中心に、その前後のことを思い出す作業をしている主人公の頭の中を覗き見るような構成になっていて、観客はいつしかアレックスの身に起こった出来事を擬似体験しているような感覚を抱く。
 決して長くない上映時間の中で、主人公が体験した様々なことが、時には反芻され、時にはぼやかされ、それでも観客は何が起こったのかは理解することができるようお話は進んでいきます。

 このところガス・ヴァン・サントが撮っている10代についての映画は、基本として視線(主観視線)が重要な役割を負っていて、この作品でもそれは同じ(たぶん内省表現のガス・ヴァン・サントなりの回答)。一見客観的であるような表現も、編集という作業に寄って何処までも主人公アレックスの視線に還元されているという割と高等なテクニックが機能しており、これはスゴいと思いました。
 「エレファント」以降挑戦し続けたことが今回の映画で一つの形になったんでしょう。その関連で言えは、「エレファント」、「ラストデイズ」などで観られた過剰に少年のナイーブさを礼賛するようなジメジメとした表現が薄らぎ、人間として感情のネジがいくつか抜け落ちてしまったかのようなアレックスは、その悲惨な出来事にさえなんら感情的な揺らぎがないようで、ノートに綴られる出来事に対して非常にフラットだ。これは、今回の映画が原作付きであることも影響があると思いますが、初心に立ち返ったようなドライな眼差しで現代の若者とその問題を描くことに集中していた部分が大変良かったと思いました。

 最後の気付いたこと1つ。
 映画を観て一番ビックリしたことは、ガス・ヴァン・サントなのに「切り株映画」だったこと。まっこと見事な切り株死体が登場しますので、その手の要素がお好きな方はぜひどうぞ。
 あと、やっぱり今でも一番好きなガス・ヴァン・サントの映画は「誘う女」です。(本物にしか見えない殺し屋のクローネンバークが素敵!)

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