人生はおかしくて、悲しい。

 さて、感想文も4本目。
 少し前に鑑賞した「迷子の警察音楽隊」。珍しいイスラエルの映画。監督はエラン・コリリン若い監督さんらしい。(長編第1作目)


 まあ、日本版タイトルどうりの内容で、エジプトから記念イベントのためにやってきた警察音楽隊が、イスラエルで迷子になって、さあ大変というもので、本当にこれだけ。
 映画の冒頭、外国に来て(それも最近まで敵対していた国)、訳のわからない場所で立ち往生する音楽隊の不安な心理を、イスラエルの田舎町の寒々とした光景が象徴しています。
 荒涼とした砂漠の中を真っ直ぐに貫く道路や黄砂にかすむ先にひっそりと佇む巨大な団地など、絶対に日本ではお目にかかれない光景の連続です。
 映画の雰囲気としては、アキ・カウリスマキのよう。派手な出来事は起こらず、淡々と進みます。 わかりやすく笑える部分が少ないので、こういう映画を見慣れていない人はストレスがたまるかも。
 でも、手堅く心が暖かくなるようなエピソードが組み込まれ、主人公である音楽隊の団長のトゥフィーク(サッソン・ガーベイ)と彼らを助けるカフェの女主人ディナ(ロニ・エルカベッツ) との一晩限りの関係がどうなるかが緊張感を高めます。結果は観てのお楽しみ。
 下げの部分は、本当に予想どおりの場所に着地するんだけど、それでもそこにある風景は、映画冒頭のそれとはまったく異なったものになっている、旨いなぁと感心しました。


 印象深いのは、音楽隊のイケメン隊員カレード(サーレフ・バクリ)がカフェで知り合った気弱な青年とその友人と一緒に、ローラースケートするクラブへ遊びに行くエピソード。
 誰が見てもショボイその娯楽施設(DJ風の男が一人いて、体育館のステージみたいなところでちっちゃな機材でプレーしている。)で、イケメン団員は、最初女の子を物色していましたが、その内モゾモゾしている青年と語らいます。
 青年は友人から従兄弟の女の子を紹介してもらうんだけど、どう接していいのかわからず彼女を拒絶、微妙な雰囲気に。 イケメンが「何事もちゃんと自分から行動しないと、チャンスを逃がすよ」みたいなことをアドバイス
 しばらくすると、突然彼女が泣き出す。
 困った青年は、イケメン隊員の指導のもと、彼女を慰め始める。
 この最後のシュチュエーションは、正面から3人をワンカットで撮影。
 流れるように横方向の連鎖していく動きが、微笑ましくもロマンチックな場面を生み出し、観ていると何だかニヤニヤできます。
 他にも、妻の誕生日に見ず知らずの外国人を自宅に連れ帰ってしまったことで、いたたまれない空気を生み出してしまう男(カフェの客)や招かれたばかりに、夫婦喧嘩に巻き込まれて小さくならざるを得ない団員たちの描写 など、派手では無くともしっかりとしたコメディを演出できていると思いました。


 一夜が明け、それぞれがいつもの日常に戻っていきますが、何かが具体的に変わった訳ではありません。それでも、昨日とは違う。そんな余韻を残したまま、音楽隊の演奏をバックに映画は終了。
 政治的には、現在も微妙な状況にある地域と民族を扱っている作品ですが、堅苦しくなく楽しめ、さらに短いのがいい。
 最後に暖かい気持ちになれること請け合いなので、いつもと違った映画が見たい人には、お薦めです。