女番長ライラが征く！

　13本目の感想。「ライラの冒険　黄金の羅針盤」
　実のところ以下のエントリーを読まなかったら、観にいくつもりが無かった作品。

• http://d.hatena.ne.jp/S2D2/20080321/p1（←傑作。）
  
• http://d.hatena.ne.jp/samurai_kung_fu/20080305#p1 （←納得。）
  
• http://d.hatena.ne.jp/kirockyou/20080301#p2（←スルドイ。）

　で、いろんな意味で興味がわいたので、いそんで映画館へ向かったのですが、冒頭10分でまずビックリ。 上でも指摘されているとおり、「三部作の1本目です。」っていう素直な言い訳から始まり、もう全編見事なダイジェスト。さらに言えば長めの第1話なので、お話らしいものはあっても、キャラクターの紹介とほぼ前フリのみで構成されている。 適度な見せ場と、VFXを活用した画面でサクサク進んでいく。
　しかし、以外と旨いこと効いているがライラ（ダコタ・ブルー・リチャーズ）のキャラ設定。こういう作品にしては珍しく、最初からライラは女王様キャラで押しがつよい。（ジプシーの子との駆け引きは見事。）アスリエル卿（ダニエル・クレイグ）を向こうに回しながら、一歩の引かない番長ぶり。反体制の勢力を次々と籠絡していきながら、さらわれた友人ロジャー（ベン・ウォーカー）を救うべく奔走する姿は、まさに漢の中のオトコ。
　コールター夫人（ニコール・キッドマン）には一瞬たじろぐも、一度敵と認識すれば、迷いは無い。北の果てにある研究所を破壊するさまは痛快。
　だぶん監督のクリス・ワイツ（「アバウト・ア・ボーイ」は傑作）は、ライラの猪突猛進ぶりを利用して、長大な原作を2時間にまとめようとしたに違いないと妄想してしまいました。（結果から言えば失敗してるんだけどね。）

　ビクトリア調のイギリスを模した世界は、映画の冒頭、うすい皮膜をくぐり抜けるような演出によって、平行する別世界へ観客を導く。僕はこの演出を観て、「おっ」って思いました。（よい意味で。）また、陰影を巧みに使い、子供向け映画にありがちな奥行きの無さを見事に回避している。
　クリス・コロンバスが撮った「ハリー・ポッター」の2本は、やっていることが子供っぽいという致命的な欠陥があるんだけど、それ以上に画面全体がフラットで、隅々まで見えてしまうという失敗をおかしている。
　その点「ライラ」は、美術、セット（建物）、小道具、メカのデザインなど、非常に細かなところに気が行き届いていて楽しい。一部で話題の「クマーー!!」についても、満足のいく「クマーー!!」ぶりで、まさか中の人がガンダルフ（サー・イアン・マッケラン）とは最後（エンディングテロップ）まで気付きませんでした。
　そういう点では、このところ量産されていたファンタジー系映画の中でも、自分的には上のほうに入るんですが、さきに述べたダイジェスト感以上に、これは問題だと思う部分があるように感じました。
　
　「平行世界」・「ダイモン」・「ダスト」・「GOB（ゴブラー）」など、音として耳（視覚的に言えば字幕）に入ってきても、意味がつかみにくい上に、イメージしにくい事象が冒頭から盛り沢山。原作者のフィリップ・プルマンはイギリス人で無神論者、原作ではバリバリキリスト教を揶揄ってるそうですが、それ以上に先端の科学知識を土台にした設定が、娯楽の部分の足を引っぱてしまい、子供向けのファンタジーというより、しっかりとしたSFを読んだときのような楽しんだけど難解みたいな読後感が全体を包んでいる感じ。
　良くも悪くも、文系の人が考えそうな曖昧さを含んだゆるい世界観（既存の神話を基にしたり）でないことは、結果として間口を狭くしていると思いました。
　「ハリー」については、さっき散々に書いたんですが、でも娯楽という点においては、うまい部分が多い。やっはり客は、ハリーが乗るホウキは超絶性能のスーパーカーのほうが夢があってわかりやすい。
　興行成績が全てではないけれど、観客への提示の仕方をもう少し工夫できれば、ニューラインを傾けるような結果にはならなかったんではないかと考えていました。

　それとこの映画、ライラはもちろん視覚的にもバッチリなんですが、個人的には悪役側がツボにはまりました。コールター夫人はもう普通にスゴい貫禄で、次回は必ずや黒いマスクと衣装で「コーホー、コーホー」言ってくれるに違いない。教権サイドの権力者たち（サイモン・マクバーニーやデレク・ジャコビ）なんかも、いかにもって感じ。序盤の薄暗い部屋の中で密談する教権関係者シーンは、まるで「ゴッドファーザーPart3」みたいで痺れました。やっぱり、バチカンの奥深くでは、日々このような悪巧みが行われているに違いない（爆）。
　あと、下っ端ショッカーを明らかにエスキモー（あえてイヌイットとは言いません）やロシア人にしているのは、やはり何かの意図があるのか、などと妄想してしまいました。
　
　ところで、結局髪の短いサルマン様（クリストファー・リー）は何のために出てきたんですか、知ってる人教えてください。（笑）

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